ローマの休日(アン女王に)
本田憲嵩
大戦後の活気づいたローマ市街をせわしなく活き活きと駆け抜けてゆく
いまでも自由な少女である 永遠のあなた
ローマでの人々との楽しい振れ合い 星条旗の国から来た男とのロマンティックな恋愛
けれどもそれは公人たる女王としての通過儀礼であり そして試練の選択
夢のように濡れたくちづけの初夜をついに終えて
けれどもあなたはけっして自由の女神にはならなかった
ひとときの家出から舞い戻ったあなたは もうすでに白いネグリジェを着た聞き分けのない幼女ではなく
常にその姿勢を立派に律している 黒いガウンコートを纏った高貴なる美婦人
侍女からのミルクを拒み ビスケットを拒み (そうして一輪の薔薇も下げられ)
まるで別人のように変身を遂げた
あなたの毅然とした態度とその威厳に
ぼくはまだ火を付けていない咥え煙草を
ポロリ、と落とし まるで漫画のシーンさながらに
思わず目を見開いたまま
そうして古代から続くローマの土地にて
貴方はけっして何處の国の王女でもない このヨーロッパそのものの誇り高き女王
貴方を目の前にして
ズラリと横一列に整列したヨーロッパ諸国の記者たちの連なりから
ヨーロッパ共同体大陸の片影がかすかに見え始める