黒い鞄
リリー

 つよさ増してきた街路樹の木漏れ日に
 手をかざすこともせず
 信号が青になるのを待っていた

 車道、瞳に写って忽ち忘れゆくものあり
 そして横断歩道の白線部分へと進み出る

 私の影 に接近する影を見て一歩
 左へよけると
 脇を追い抜く若い男
 背の丈は私とさほど変わらず華奢な後ろ姿
 青みがかったグレイのチェスターコートを羽織り
 角シボショルダーのビジネスバッグで
 姿勢が 少し傾いている

 重そうだな、その鞄には
 彼のそう遠くはないだろう過去と
 砂時計でいえば デスクの隅っこでくるくる
 回転する様な現在が詰まっているのか

 合成皮革だろう、ちょっと日焼けしている鞄
 なんと誇らしげに彼へ寄り添っている
 きっと彼しか知り得ない 暖かみある黒に
 なるのだろう
 
 
 


自由詩 黒い鞄 Copyright リリー 2023-04-27 20:52:01
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