ファースト・キス
たもつ


僕らはいつまで子供でいるというのか
100メートル競争に出場したままゴールから帰って来ない少年
給食を食べ続けたまま昼休みの教室から帰って来ない少女
  
草原では僕の生家が新たな生家を産み続けているから
交差点では君の両親が入水の準備をしているから
辞書の中では世界の模倣が始まっているから
恐くて
 
僕らはまだ出会うことができない
  
恐いから子供でいるのは嫌だよ
もうこんな子供でいるのは嫌だよ
あの犬や猫のように早く大人になりたいよ
「なれません」
そして早く君と出会いたい
「無理です」
 
ミイラを取りに行ってミイラになれないまま僕は帰宅
君は優しく「おかえりなさい」を言ってくれるけど
二人はまだ出会ってないから君のお鍋の中はいつも空っぽ
いつ出会うことができるんだろうね、という風の口癖を真似ると
手をつないだ僕らはアンモニアのプールで青焼きの設計図になる
むしろその前に美しい溺死体になる
 
本当はまだ子供でいたいよ
僕は君の何も知りたくないよ
僕は僕の何も知りたくないよ
「知ってください」

人気の無い陸橋の上
人気の無い車の屋根や人気の無い人を見送りながら
ファースト・キスで僕らは確定される
そして静かに君の精通が始まり
僕は初潮をむかえる





自由詩 ファースト・キス Copyright たもつ 2005-05-11 08:41:32
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