ファースト・キス
たもつ
僕らはいつまで子供でいるというのか
100メートル競争に出場したままゴールから帰って来ない少年
給食を食べ続けたまま昼休みの教室から帰って来ない少女
草原では僕の生家が新たな生家を産み続けているから
交差点では君の両親が入水の準備をしているから
辞書の中では世界の模倣が始まっているから
恐くて
僕らはまだ出会うことができない
恐いから子供でいるのは嫌だよ
もうこんな子供でいるのは嫌だよ
あの犬や猫のように早く大人になりたいよ
「なれません」
そして早く君と出会いたい
「無理です」
ミイラを取りに行ってミイラになれないまま僕は帰宅
君は優しく「おかえりなさい」を言ってくれるけど
二人はまだ出会ってないから君のお鍋の中はいつも空っぽ
いつ出会うことができるんだろうね、という風の口癖を真似ると
手をつないだ僕らはアンモニアのプールで青焼きの設計図になる
むしろその前に美しい溺死体になる
本当はまだ子供でいたいよ
僕は君の何も知りたくないよ
僕は僕の何も知りたくないよ
「知ってください」
人気の無い陸橋の上
人気の無い車の屋根や人気の無い人を見送りながら
ファースト・キスで僕らは確定される
そして静かに君の精通が始まり
僕は初潮をむかえる