小鳥の最後
Monk



手のひらから小鳥が生まれる
4月の終わりにそれは始まり
僕は少しずつかなしみを知ってゆく


朝目覚めると小鳥は一羽生まれる
だからといって何もしてあげられない
飼い方も知らない
仕方なくテーブルに置いたまま会社に出かける
帰ってくる頃にはもういない
きっと窓がどこか開いてるんだろうと思う


小鳥はかなしいことがあると生まれる
わりとささいなかなしみで生まれる
ヨーグルトが売り切れていたことや
傘を電車に置き忘れたことや
僕にはそういったかなしみが多いことを知る


生まれてはいなくなるを繰り返す
すでに小鳥は何十羽も生まれ
一羽として残らない
僕は小鳥のことを誰かに話したことがない
話すような相手は誰もいない
僕の生活は以前となにも変わらない


8月の終わりに生まれた小鳥は
嘴の形が少しいびつだった
手のひらの上
不自然な噛み合わせで
わたしで最後です、
と言った


僕はその日はじめて小鳥の声を聞いた
だからといって何もしてあげられない
一応窓が全て閉まっていることを確認して
やはり会社に行った
部屋の中にはいつも以上に熱気がとどまった


次の日に小鳥はもう生まれなかった
ほんとうに最後だった
あれはひどくかなしい声だった
その日の日記に僕は書いた
もうかなしいことは何一つなくなり
それが最後の思い出だった



自由詩 小鳥の最後 Copyright Monk 2003-11-27 22:07:19
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