佐々宝砂『星涯哀歌 1』によせて
角田寿星


「すべての生命は海から生れてきた。じゃあ、星はどっから生れてきた?」
そう、宇宙だね。ぼくらの生命の、おおもとの、そのまたおおもと。
ぼくらが海に郷愁を感じるように、宇宙に郷愁を感じるのは、けして不自然なこっちゃない。
宇宙にはメランコリーが意外とよく似合う。


佐々宝砂(敬称略)『星涯哀歌 1』。
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=37486


宇宙はひろすぎるんだ、とにかく。こんな銀河の隅っこじゃあ、光なんか、遅くって、まだるっこしくって、やってらんない。
この世には光より速いものが、少なくともふたつあるんだ。ひとつは、人のウワサ。そしてもうひとつは、人間の想像力。


ウルの話なら、ぼくもよく聞いた。虹色にかがやく長い髪、燃えるような瞳、宇宙焼けした赤銅色の肌。というのは、こないだ酒場で演説してた詩人の長い叙事詩。ウルのほんとうの姿は、語り手の数だけゴマンといる。
オルガ星系サンクチュアリでは、圧政に喘ぐ人々を一気に救い出した。カタラーノ星系ジュエルでは、永劫ゆるされることのないだろう虐殺を行った。スピカ近辺での海賊との一騎討ち。ペットであり、相棒でもある、フレイムタイガーのカズン。そしてウルが、ただひとり愛した女性のこと。
ウルの話なら、ほんとうによく聞いた。


ウルが愛飲したという、カペラの酒。飲むと天蓋からオルガンの残響が雨あられと降ってくるって、ほんとうだろうか。その音楽とともにウルが帰ってくるような気がして、あの苦い酒を注文するヤツが、今日も後をたたない。


散文(批評随筆小説等) 佐々宝砂『星涯哀歌 1』によせて Copyright 角田寿星 2005-05-11 00:37:25
notebook Home 戻る