chill
木屋 亞万

目の前が
桜の花びらに
埋め尽くされていたとき
きれいだった

若葉がちらちら
顔を出して
蕊だけが残った枝は
好きになれなかった

春のはじめの
端っこの方だけ
少し彩っては
散った

いざ春が始まってしまえば
名前も覚えられないくらい
あちこちで花が咲いていて
気持ちがついていかなくて最低

自分のことに無頓着すぎて
骨だけになってしまった体
あざわらうように
肋骨をすり抜ける花びら

しぶとく咲いてる桜もいるんだな
骨をぎしぎし言わせて歩く
頭蓋骨のくぼみに花でも活けて
けたけた笑ってやろうか

つめたさの残る間は春で
冷静さを忘れてしまうくらい
熱を持てば夏らしい
涙のかわりに花びらが散る


自由詩 chill Copyright 木屋 亞万 2023-04-16 00:23:22
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