雨のあと、廃園で
石瀬琳々

雨のあと、僕らは廃園で見た
レインコートを着た怪人
手足が長くて、大きなシャベルを持っていた
まるで今しがた何かを埋めていたように
土に汚れたレインコートを


その色を その手触りを
覚えている、まるで春になる前のくすんだブルー
雨上がりのちょっとした空のいろ
レインコートを風にはためかせ
片足を引きずって去っていったさびしげな後影


振り向く前に 視線が合う前に
隠れた塀には冷たい涙雨のしみ
僕らが震えていたのは寒さのせいだけじゃない
知ってしまった、そう 怪人がひそかに埋めたものを


もう戻れない もう同じではいられない
否応なく大人になるしかないと知った日
あの空のいろを あのゆっくりと変わる雲のさまを
胸に刻んで、今でもどこかに探している
ある日突然立ち現れる春のこわさを


雨のあと、素知らぬふりして僕らは帰る
誰もいない廃園をあとにして







自由詩 雨のあと、廃園で Copyright 石瀬琳々 2023-03-25 12:41:02
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