雨のあと、廃園で
石瀬琳々
雨のあと、僕らは廃園で見た
レインコートを着た怪人
手足が長くて、大きなシャベルを持っていた
まるで今しがた何かを埋めていたように
土に汚れたレインコートを
その色を その手触りを
覚えている、まるで春になる前のくすんだブルー
雨上がりのちょっとした空のいろ
レインコートを風にはためかせ
片足を引きずって去っていったさびしげな後影
振り向く前に 視線が合う前に
隠れた塀には冷たい涙雨のしみ
僕らが震えていたのは寒さのせいだけじゃない
知ってしまった、そう 怪人がひそかに埋めたものを
もう戻れない もう同じではいられない
否応なく大人になるしかないと知った日
あの空のいろを あのゆっくりと変わる雲のさまを
胸に刻んで、今でもどこかに探している
ある日突然立ち現れる春のこわさを
雨のあと、素知らぬふりして僕らは帰る
誰もいない廃園をあとにして