二十六才の頃
板谷みきょう
それは
市民会館の入口
玄関前での出来事
ライブを終えた日没後
車椅子に乗った女性が
黄昏時で
段差があることに気付かず
転倒し
車椅子から転落した
ボクは慌てて駆け寄り
抱きかかえて
車椅子に乗せようとした
彼女は不随運動があるのか
体動が激しく
併せて構音障害もあるようで
何を言っているのか
奇声を上げる
ボクの鞄やギターケースを
持って来た音楽仲間の一人が
福祉ボランティア経験者らしく
ボクの代りに
彼女を車椅子に乗せてくれた
彼女の言う事が
聞き取れているようで
暫く話した後で
笑いながら
ボクに向かって
「彼女が言うには
『車椅子から落ちたら、
突然男が襲ってきて
乱暴しようとした。』だって。
イタヤが黙ったままで
抱えようとするからだよ。
まず『大丈夫ですか。』で
『お手伝いしますか。』だよ。」
それでボクは彼女に
抱きついたのでは無く
車椅子に乗せようと
抱えたことを伝えて
謝った
帰り道
バンドメンバーから
「自分の荷物だけじゃなく
大事なギターまで投げ捨てて
脱兎の如く駆け寄る様は
笑えたよ。」
随分と長い間、冷やかされた