健康増進法
ゼッケン

神様が人間の事を気にかけているとすれば、その理由は
人間が自分の肉体を健康に保とうと気にするのと同じだ
信仰のない蛇は神の肉にはならない
蛇が神様を信じないのは蛇には神が見えるからだ
そこに見えるものをそこにいるとわざわざ信じ込む必要はない

おれもときどき神様とは友だちだったような気がする

普段は熱力学の法則と呼ばれるのを好むように思える神様も
たまにはおれとも個人的に親睦を深めようとする
おれがたまにはジョギングでもしてみようかしらと思うのは
肉体を苦しめたいと思うからだった
肉体が苦しめば精神は喜ぶ
肉体が嫌がる様は心をおおいに満足させる
支配しているのはどちらか、思い知らせてやれる
苦痛をみずから求めることでしか、肉の欲に打ち克つことはできない
そういうわけで怠惰なおれはジョギングをやめる
おれはいじけた精神に味方して身体を虐めたりはしない
そういうときに神様は出張先の盛り場の路地裏でおれを暴行する
2軒目探されてますか? おひとりですか? だったら女の子と相席どうです? 
いいスーツを着てますね…あ? いま、なんつった、こら
おれは若者に小突き回される、必死に身をよじる
神にじゃれつかれておれは歓喜の舞を踊る
すぐに年上の男が来て若者を制す
すみませんね、行ってください、と小さく頭を下げた年上の男の頬をおれは殴りつける
こいつは神様じゃない
男は表情を変えることもなく手際よくおれを制圧し、交番に突き出す
事情聴取を受けたおれは男と示談し、治療費と慰謝料を払って解放される

おれを構成するひとつひとつの細胞がおれの意志を知らないとしたら、
おれが構成する世界の意志をおれがどうやって知ることができるというのか

おれはホテルに戻るタクシーの車内でタバコに火をつけ、
運転手に暴言を吐く
タクシーは進路を変えて
交番へと向かう
おれは罪を告白し、赦しを乞うのだ


自由詩 健康増進法 Copyright ゼッケン 2023-02-21 23:18:22
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