牢記
あらい

今日を通り過ぎゆくひとびとを 意味もなく折り曲げ
小道に広がる落ち葉を拾って帰る 死相が耳朶を覆うという
――だれもいないところへ
メタルフレームの一角から、寂しそうなカラダが、だな
私以上の博識で、疑問を解いて、どこかいってしまう兆しだ

ぬるめに下げられたゲストハウスの 非科学的冷暗室にいる
標本たちは深夜もかわるがわる うめきひしめき天に泣く
へたり込んだ遺り蛾を口に含む、呼気より甘く喘鳴より微温く。

シャーレに展開する煙霧質の牢記を、宝石と図りてみること
黴びた氷が、花を帯びるように、溶け出し詠んでいること

斜め向かい側の筋交いが小首を傾げている気がする
何重にも敷かれた KEEP OUTの プラットホームを
吹きさらしにおけるモノクロークが 時計の針を停め
遠い国のはなしが 数式を連れて なにげなく現れるのを

何本目かの烟草をもみ消して なかったことにする


自由詩 牢記 Copyright あらい 2023-02-17 20:17:31
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