ある幻影
リリー
カップ麺に熱湯注いで待つあなたの
お耳を拝借できますのなら
こそっと お話してみたい
京都駅から地下鉄に乗り四条駅で降りて
阪急電車に乗り換えます
地下鉄の改札を出た駅構内に
小さな花屋があるのです
色とりどりの花が所狭しと飾られて
通行人の目を引きます
ところがある日の夕刻でした
花屋の前に女が立ち止まっていた
何の花を見ているのか
小さな花屋はどうして
その時 真っ赤な花ばかり揃えていた
女は瞳をスウー∽∽ とかげらせると
花屋の前から立ち去った
あの人の立っていた跡から
霧のようなものが湧き上がっていた
紅い花ばかりだった筈の花屋の店先
それらが皆
薄い白色になっているのを確かに認めた
あの人が色素を吸いとっていったのか
だとすれば今頃
あの人が何処を彷徨っているのかは
解らないけれど
あの人の頭の中も心の中も
いや 足の裏さえも
真紅になっているに違いない
瞳にかかる薄い膜も
真紅にちがいない
涙も紅く流れるだろう
私は駅構内の花屋の前で
あの人の立っていた跡に立ちながら
ああ あの人を
追うべきだったと思いつづけた
夢の 話ではございません
さあ蓋を開けて
どうぞお召し上がりくださいませ