ある幻影
リリー

 カップ麺に熱湯注いで待つあなたの
 お耳を拝借できますのなら
 こそっと お話してみたい

 京都駅から地下鉄に乗り四条駅で降りて
 阪急電車に乗り換えます
 地下鉄の改札を出た駅構内に
 小さな花屋があるのです

 色とりどりの花が所狭しと飾られて
 通行人の目を引きます
 ところがある日の夕刻でした

 花屋の前に女が立ち止まっていた
 何の花を見ているのか
 小さな花屋はどうして
 その時 真っ赤な花ばかり揃えていた

 女は瞳をスウー∽∽ とかげらせると
 花屋の前から立ち去った
 あの人の立っていた跡から
 霧のようなものが湧き上がっていた

 紅い花ばかりだった筈の花屋の店先
 それらが皆
 薄い白色になっているのを確かに認めた

 あの人が色素を吸いとっていったのか
 だとすれば今頃
 あの人が何処を彷徨っているのかは
 解らないけれど
 あの人の頭の中も心の中も
 いや 足の裏さえも
 真紅になっているに違いない
 瞳にかかる薄い膜も
 真紅にちがいない
 
 涙も紅く流れるだろう

 私は駅構内の花屋の前で
 あの人の立っていた跡に立ちながら
 ああ あの人を
 追うべきだったと思いつづけた

 夢の 話ではございません
 さあ蓋を開けて
 どうぞお召し上がりくださいませ



自由詩 ある幻影 Copyright リリー 2023-02-04 11:56:56
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