犬の前で
soft_machine

 犬といる午後
 肉がざわめく
 灰いろのひろがり

 この部屋で
 許しがあったことはなく
 交わす偽り
 弾ける肉声
 どこからが贖いなのか
 どちらが生なのか
 知る迷いはない
 痛みに刻まれる

 おさない悲鳴に怯える
 耳の記憶

 違う
 悲鳴ではなかった 笑顔だ
 いつも心から笑い
 あなたが泣いたのは
 犬の前
 犬の前でだけ狂い

 北の諸島へ羊を追って
 犬とふたり 泣きながら

 海の轟に
 指を咥え
 今も放さないあなた





自由詩 犬の前で Copyright soft_machine 2023-01-29 20:56:21
notebook Home 戻る