曇天
リリー
ラッシュアワーを過ぎて車輌には
まばらな乗客
停車したその駅では誰も席を立たない
低い土手が迫る人影ないホーム
竹の混ざった雑木が金網で仕切られていて
絶え間無し 葉を落としていた
二輌電車の扉は閉まろうとする
その傍らの席に居て
見開いた私の眼が
「あれは!」
声に出せずガラス越しに追いかけて
見失ったもの
雑木の散り落ちる一葉で
あるかのようでいて
浮遊し上昇していったモンシロ蝶
走行する車窓から十一月も半ばを過ぎる
空をみる
墨絵のなかに迷い込んだかの様な
曇天が拡がっていて
まなぶたの裏に映る蝶の羽の残像を
再びそこに見失う
午後にもう一度同じ路線で帰る時
停車するあの無人駅は雨の中に
あるだろうか
ただ ぼんやりとそれだけを思った