曇天
リリー

 ラッシュアワーを過ぎて車輌には
 まばらな乗客
 停車したその駅では誰も席を立たない

 低い土手が迫る人影ないホーム
 竹の混ざった雑木が金網で仕切られていて
 絶え間無し 葉を落としていた

 二輌電車の扉は閉まろうとする

 その傍らの席に居て
 見開いた私の眼が
   「あれは!」
 声に出せずガラス越しに追いかけて
 見失ったもの
 
 雑木の散り落ちる一葉で
 あるかのようでいて
 浮遊し上昇していったモンシロ蝶

 走行する車窓から十一月も半ばを過ぎる
 空をみる
 墨絵のなかに迷い込んだかの様な
 曇天が拡がっていて 
 まなぶたの裏に映る蝶の羽の残像を
 再びそこに見失う
 
 午後にもう一度同じ路線で帰る時
 停車するあの無人駅は雨の中に
 あるだろうか 

 ただ ぼんやりとそれだけを思った
 

 


自由詩 曇天 Copyright リリー 2023-01-24 16:17:37
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