雪女の娘
リリー
道端には新雪のふかふかな布団。
そこに顔面から身を投げて
飛び込み死んだふりする中学生。
ムクリと立ち上がって
顔と体中の粉雪を払い落とす
その子の微笑み。
今年の山村の大雪は五十年ぶりだと
集落の人たちはうわさした。
あの子が来たからじゃないのか。
通学路にはその子の身の丈と変わらない
雪の壁。大きな長靴を履いて
桃色のスキーウェアーに身を包む
その子が朝の道行く銀世界から
振り向いた。
街中で心を病んだその子は京都北部
山間地の峠を越えてやって来た。
萩の花がまばゆく咲く頃
村の小学生たちが夏の名残の河遊び。
そこに混じって泳ぐあの子は転校生。
彼女の水着姿を見かけた
中学校の男子生徒は教室で。
白くってトイレットペーパーみたいな
子が来たぞ!
と、同級生に報告した。
そんな彼女の迎えた冬の
五十年ぶりな山里の寒さ。
あの子が来たからじゃないのか。
集落の人たちはうわさした。
親元離れて預けられた教員住宅は
木造平家建て。
その軒下で太くて長い氷柱と並んで
ピースサインするその子の写真。
それを手にとって眺めみる、
一人親の彼女の母が街にいた。