閃光うさぎ
ただのみきや
壊れた天秤が地平の距離を金色に燃やすころ
符号の片割れにされたうさぎは橋から飛び降りた
もの事が売り買いされていた
のたうつ悲鳴が
脚を生やして時間からの逃亡をはかる
そんな一日との組体操に船一艘投げつけた
舌と眼球が
熟れすぎて取り返しのつかない現実の照り返しに
竜巻だ百も千もの旋律が筋肉だ
風もないのにめくれる雑誌の火照った横顔
方向の定まらない微笑みは辺りを破壊した
女神のかいな振る風の袖
光景すべてを引きはがして貪婪に貪ると
それらはくびれの中心の小さな抜け穴を通ってどこかへ転移する
だが真夏の夜の羽アリみたいに
無暗な感情の動乱がいつまでも続くことはない
砂地での脱力と霧の鳥瞰にも似た放心とがただ点々
空虚を頭にのせて運ぶよろめく足取りだけを白日にさらしている
自らの孤独な影
どこまでも伸びて行ってやがて闇と見分けがつかなくなる影を
焦点の合うことのないまなざしの休み場とする
ペンは死者のように
老いと幼さは同居し抱き合い鳥肌をまとう
世界が重力を失くしていた
測り縄の重りはただ冷たく
座標の定まらない違和感の浮遊
ここに在って触れれない
言葉をかみしめると血の味がした
そんな錯覚を薄めるための製氷を脳は続けている
実験志願者のために臭いウミガメが小さな一つの地獄を流産した
そこでは透明度の高い作り話の底
真の悲しみが女の姿で千切れた旗を演じていた
ホチキスで留められ続けている
昨日も今日も新たな感情は裂け目だけが閃光
橋から飛び降りたうさぎはいまだ落ち続け
生きて解剖されている
(2023年1月14日)