桜の樹/即興ゴルコンダ(仮)投稿
こうだたけみ

転んで妖精になったので七日間の愛のない逃
飛行へとしけこんだ。電話口の看護師さんの
声には多少なりとも愛があったし上司からの
メッセージにだって愛はあったと思う。でも
どれも  一人で逃げてよね  って距離を
置かれた愛だった。あらゆる愛と名のつくも
のは私には片想いであって。誰かがくれるも
のとこちらから贈るものとはどこまでいって
も交われない。一方通行の緩い上り坂を時速
十五キロくらいの速度でたらたら走りつづけ
る初心者マークを外し損ねたままの薄汚れた
軽自動車に乗って。みたいな感じ。もう何を
忘れてきたかも思い出せないし、何に忘れら
れたのかも思い出せないし。どこへ向かって
いるかと聞かれたら「天辺ですかねえ」とし
か言いようがなくて。復調はしているのに、
横になったまま縦になれずにいる。置いてけ
ぼりの樹のウロの苔むす淵の仄暗さ。発酵し
つつなみなみと召しませ特製ましら酒。この
山に猿はいるだろうか。そもそもここって山
なんだろうか。だとしたら低いよなあ。しん
しんとくらいばかりで。なんにも、見渡せや
しない。


自由詩 桜の樹/即興ゴルコンダ(仮)投稿 Copyright こうだたけみ 2023-01-02 19:32:15
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