日付の無い日記/夏、転校生
ちぇりこ。

・チューリップ模様の宇宙船に乗って
あの娘はやってきた
ぼくたちとは違う匂いがした

・はじめまして
あの娘はクラスの女子たちと握手をする
女子たちの手のひらから
チューリップが生えてきた
やっぱりぼくたちとは違う匂いがした

・あの娘が転校してきて以来
クラスは異国の港街みたいになった
様々な言語が水揚げされ
見たことの無い市が立つ

・夏服になる季節
あの娘の匂いは薄まるどころか
日増しに濃くなってくる
白い指さき大きな黒い瞳
日に透けると琥珀のような髪の毛
戸惑う、を覚えたての
ぼくたちは

・夏休みの体育館は
水の無い惑星に不時着した
宇宙船のようだった
どこから入ってきたのか
蛾や羽虫の死骸が隅っこの方で
水分の抜けたからからの粉になっている
体育館シューズで踏んでも感触は無い
練習用のバスケットボールが
探査機のように転がってきた

・夏休みのある日、星空教室が開かれた
夜になると校庭に集まって
理科の先生と一緒に天の川を観察する
数人の女子も参加していた
その中にあの娘も居た
あの娘を中心とした女子の
体育座りの輪が出来ていて
女子特有のお喋りがUFOを呼ぶ儀式のようで
ぼくたちは正に
戸惑いを覚える瞬間だった
見上げるヴェガの隣にあの娘が居た
ような気がして
あ、と指をさした瞬間に
流れ星

・二学期に入って
程なくしてあの娘は
お父さんの仕事の都合で転校して行った
来る時はチューリップ模様の宇宙船
だったのに
行く時は日産の白いサニーだった

・ぼくたちは
戸惑いの惑星を行ったり来たりしている
宇宙塵のように
夏に置いてけぼりにされて
あの娘の匂いを忘れてしまうのかも
しれない



自由詩 日付の無い日記/夏、転校生 Copyright ちぇりこ。 2022-12-31 09:08:23
notebook Home 戻る