イリアスの矜持(九)
朧月夜
その時、クーラスの密使が部屋の中に入ってきた。
密使は、祭祀クーラスの耳元に何やらささやく。
祭祀クーラスは、にやりと口の端を歪ませた。
「イリアス殿。どうやら、貴女の期待は裏切られるようです」
「それは、グーリガン様がここを訪れると?」
「そう。所詮、アイソニアの騎士も男なのです。
愛する者のためであれば、平気で命を投げ出す。
そして、世界を破壊しても構わないと思うのです」
「そんな……。グーリガン様ともあろう者が……」
「あなたは買い被っていたのですよ。アイソニアの騎士を。
彼は、所詮は傭兵風情の人間。世界のことなど、考えてはいません。
世界の行く末を考えるのは、政治家の仕事なのです。
そこでは、人一人の命など、顧みている余裕はありません。
人間全体が生き延びること、それが政治のなすべき役割なのです」
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クールラントの詩