女學生日記 四十五
TAT


十二月二十三日 土曜
天氣 晴
起床 六時〇分
就床 九時〇分

今日は終業式である
校長先生より休中に於ける御注意・花村先生の御注意・奥田先生の御注意
式後紀元二千六百年の歌の練習があつた
教室に入り成績表をいただく
今日は自轉車通學 関町 徒歩通學 寄宿舎(昨日は無し)の方達が成績の批評をしていたゞいた
私は二分上つて大そう嬉しい
あんまり人のことかれこれとしやべり過ぎる性質だと自分も気附いてゐた
今日先生に言はれて自分の注意しなければならぬのは口だとつよく思ひしつかりやりたいと覺悟した
私は不可ないと思ふ
自分の欠点を知らないで行ふのは好いが知つてゐながらそれを行つてゐるのは知らないで行つてゐるよりもまだ惡いのだと考へるからである
あゝ併し悲しいかな私は後者なのだ
しつかりやらう
お晝からピアノの練習のことで小宮さんのお家へ行つた
夜習字を練習した



十二月二十四日 日曜
天氣 晴
起床 七時〇分
就床 十時〇分

今日はとても朝寢坊をしてしまつた
お休の第一日からしかも家庭鍛練の日
こんなに遲くては不可ないと思つた
今日手袋が片方出来上つた
今日兄さんが眞桑の御祖父様の所へお行きになつた



十二月二十五日 月曜
天氣 晴
起床 六時三〇分
就床 九時二分

毎日〳〵とても暖い
今年中にしてしまはなければならない事があれもこれもと考へ出されてぼんやり過ごした
夜美しい月が上つてゐた
戰時下とは言ひながら歲の瀬のどよみの中に月ばかりは悠久なつめたい光を投げてゐた
今日はクリスマスであり大正天皇祭である
クリスマス
第二次世界大戰の突發した歐州の子供達
分けても建國二十三年にして亡びたポ|ランドの子供達はどんな心で此のクリスマスを迎へたことだらう



十二月二十六日 火曜
天氣 晴
起床 六時〇分
就床 十時三〇分

空は心にくき程に晴れてゐる
秋へ後もどりでもしたやうな天氣だ
道行く人の足がなんとなく忙しくなる
防火宣傳・防犯宣傳
少しではあるが賣出廣告
眼にふれるすべてが慌しい歳末風景である
柱暦の紙うすく
わづかの頁のこしつゝ
今年も暮るるこの月よ
昭和十四年と云ふ日がもう何日
指折かぞへる幼き子の顔
自分も小さい時はあんなにお正月を待つたものだと思つてなつかしかつた



十二月二十七日 水曜
天氣 晴
起床 七時二分
就床 八時三〇分

洞戸の吉野和子さんにお手紙を出した
明日は家の餅つきであるからお米を洗つたり臼や杵を揃へたりとてもその準備に忙しかつた



十二月二十八日 木曜
天氣 晴
起床 四時〇分
就床 九時〇分

朝ペツタン〳〵の杵の音に目がさめた
兄さんが始めてつかれた
私も少しばかりねつてゐた
とても力が要ると思つた
七時にやうやく終つた
お晝からは小宮さん小野さん後藤田さんと學校へピアノを習ひに行つた
小城さんは見えませんでした
三時に歸つた



十二月二十九日 金曜
天氣 晴
起床 六時三〇分
就床 九時十五分

手袋が仕上つた
長田さん淺田さん野本さん飯島さん正木先生に年賀状を出した
二階を整理した



十二月三十日 土曜
天氣 晴
起床 七時〇分
就床 十時十分

晝前は豫定通り勉强し午後からお便所お納戸のお掃除をした
下駄箱の油ふきをした
階下の大掃除をして雜巾をかけた




散文(批評随筆小説等) 女學生日記 四十五 Copyright TAT 2022-12-30 09:04:55
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