かさ
ひだかたけし

あなたの空に
雨は降り
震えながら
明日はない
と、
今宵だけ
あなたの胸から
流れ出る、
遡る時間
失われた記憶

寝台列車が発車する
カンカン鳴る踏切警報機、
幾つも幾つも後にして
沈み込むように
深夜を抜け
夜明けの薄闇に
人家の庭先を過り

あなたを泳ぐ
あなたと泳ぐ
太陽と大洋が
交わり合って
境界を越える
処まで今日も
雨は降り続け
やがて、
雪になる
溶かして
胸の内に
あなたを溶かす
わたしの胸の内に

わたしの空に
雨は降り
かさがない、
かさはいらない、
フリーズしていた
遠い記憶、
次々と次々と
現れ流れ出す

沈潜していく心の奥、

夕暮れ時の
影、限りなく伸びる校門で
あの子は未だ歌うたっている
迫る夜闇に私は怯え、
欲望を燃やし尽くし
未だ在る家路を急ぐ

遠い家、
家は近づく、
寝台列車の走行音と共に
内から密やかなつぶやき響き、

世界の果てにて世界に合一する

朝に昼に努め営み、
夕に肉の苦痛に
くずおれ寝床に入り、

おとずれを待つ 只、おとずれ待つ










自由詩 かさ Copyright ひだかたけし 2022-12-28 17:43:59
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