クリスマスの夜に
おぼろん

少女は泣いていた。
それは、何年ぶりの涙だったろうか。

少女は、泣いていた。
物心がついて以来、

少女は己の無力を、
顧みたことがなかった。

しかし、今は涙の時だ。
少女は、決するのだった。

己が不幸が涙の原因ではない。
己が無力が、涙の原因ではない。

ひとえに、不幸は向こうからやってくる。
それは避けられない。

一向に決まらない、自分の人生、
それも、涙の原因ではない。

別れたパートナーが、
己が涙の原因ではない。

ただ、あるものがあるように、
涙は少女に降りかかってくるのだった。

少女は、己が涙の原因を顧みた。
それは、自分の無力のせいだったろうか?

それとも、自分の怠惰のせいだったろうか?
いずれも違うように思える。

少女の涙は、神が差配するように、
ただ必然として、彼女に訪れたのだ。

このクリスマスの夜、
少女はただ嘆いていた。

このクリスマスの夜が、
彼女をただ悲しませると。

一向に決まらない、自分の人生、
それは、ただ決められたことのように、

彼女を彩っているのだと。
そして、悲しみは必然として訪れると。

このクリスマスの夜、
少女はただ泣いていた。

不幸は何でもない。そして、
悲しみも何でもない、と。

ただ、孤独だけが悲しみの因果なのだ。
世界を拒絶してきた、自分に訪れるものなのだ、と。

少女は、神に祈った。
それはわたしの咎なのですか? と。

しかし、答えはない。
ただ静謐だけが、少女を見舞った。

少女は泣いていた。
それは、何年ぶりの涙だったろうか。

少女は、泣いていた。
物心がついてからこの方、

少女は己の無力を、
顧みたことはなかった。

少女は、ただ海のように荒れ狂って、
ただ海のように静謐でいた。

このクリスマスの夜、
それは、すべてに対する贖罪の夕べだとしても、

彼女を救うものはなかった。
ただ、彼女は泣いていた。

それは、何年ぶりの涙だったろうか。
少女は泣いていた。

この、幾千という救いが訪れる、
そんな他愛もないことに惹かれて、

少女は嘆くのだった。
わたしは救われる価値さえないと。

それが、少女の贖罪である。
それが、罪を担う少女の宿命だ。

少女は祈った。ただ、幸がここにあれと。
少女は祈った。数多の幸福がここにあれ、と。

少女は、なすすべもなく、
そこにいた。神とともに。

そして、その神とはひたすら残酷な存在だった。
幸も不幸も担わないもののように。

少女は泣いていた。
それは、何年ぶりの涙だったろうか。

少女はひたすら泣いた。
己が幸福を願って、いや、願わないで。

幾千の幸福を巷に、と、少女は願った。
それが自らの不幸を差し替えに、というように。

少女は泣くのだった。
高き者は低くされ、低き者は高くされると、

ただそれのみを信じて。
少女は泣くのだった。

その代償に、神は少女にひとつの物を与えた。
それは、少女の安寧だった。

少女は、今安らいで眠ることが出来る。
己が幸福とは、己が命でもあるのだと。

少女は、ただ泣いた。この世界のすべてが、
あるがままにあるのだということを、思って。


自由詩 クリスマスの夜に Copyright おぼろん 2022-12-28 16:11:29
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