Everything is okay.
朧月夜
夢はまぼろし。夢はどこにあったのだろうか?
わたしの心のなかに? わたしの未来に?
問うても詮無いことを、今さらのように言葉にして、
わたしは言葉の轍を行く。
そうね。そうして、どこへ?
そうして、月の影なるこの地へと……わたしは来る。
太陽、地球、月、奇跡的な三つの重なりが、
ときに影を光にし、光を影とする。
さあ、追いかける人たちは置いていこう。
わたしは待つ人のみを待つのだ。
待つ人のみを待つのだと言って、
わたしは誰を待つのかも分からない。
そう。いつでも分からなかった、分からなかった。
わたしを待つ人を、わたしが待つ人を。
今宵、月は雲を追いかけていた。
そこに虹はあり、虹はなく、虹はあり……
奇跡のように、オーロラのように、月は、
雲間に七色の光を落としていた。
わたしはもっと待とう。待ち人を。
それが、わたしを救う人だということを思って。
今宵、月は雲間隠れに、
隠遁していた。己だけの言葉を追っていた。
その月の向こうにあるものを、追おうとしているわたし。
埒もなく、あてもない。
何を求めているのかということを、絶えず、
追い求めているのは貴重なことだ。
時間は人の思惟には関係なく、過ぎてゆくのだから……
わたしは敗北する。
わたしが待っていたのは、月?
わたしは人を待っていたのではなかったのか。
そんな愚問を懐のなかに仕舞い込んで、
わたしは月のない中空を見つめるのだ。
もうそろそろ、
光を逃れて行こうじゃないか。
光から逃れて、月を逃れて、夢を逃れて、
ただ現実のなかに沈潜していく。現実って……?
わたしは、「わたし」ということも捨てて、
ただある道を行こうとするのだ。足下の道を。
わたしは、わたしを殺した、遺棄した、放逐した!
夢はどこにあったか。夢は夢の場所にしかなかったのではないか!
そうだ。わたしはあり得ない高みにある、
夢という名の何かを求めていた。それが何か?
自身に聞かなければ、それは答えないのだ。
それが歯がゆい。重苦しい心。
わたしは、有名な詩人の詩の朗読を聞き、
その孤独の深さに魅入られ、戦慄する。
夢の夢とはどこか? 何か?
三千世界に生きる理由を求め……
今宵、わたしはわたしに帰るのだ。
全身の苦痛と痒みが、唐突な想いに突き当たる。
ああ、夢よ。夢よ。
わたしは音楽家の名盤に、答えを求めるのだ。
わたしは今宵、わたしに向かって帰るのだ。
そこに答えはあったのか、わたしは知らない。
ただ、海の潮騒、嵐の波のなかに、
わたしは、その海のなかに飲み込まれてゆく……
悲しい月よ。わたしはいつでも懐疑的だった。
わたしは、わたしを拒絶しつつ、わたしを求める。
さあ、わたしは今わたしの仕事を求める。
わたしは、わたしを全うしようと焦る。
今宵、月が出ないうちに。今宵、月が沈んだ後に。
わたしは、沈黙のなかで瞼を閉じる。
それは明るい闇だ、と誰かが言った。
その誰かも、今はわたしから隠されていて。
わたしは一人、孤独のなかで思うのだ。
夢はいずこ? 夢はどこにあったのか、と。
終わりのない問いと答えに、今は封をしよう。
手ずから手がけた言葉が、わたしの迷いを吹っ切る。
Everything is okay. さあ、訪ねて行こう。
わたしの切り開く道が、わたしの轍となるのだ。