幽霊は死なない
ホロウ・シカエルボク
泥にまみれた古い金貨を
拾い上げて水溜りで洗った
鈍い輝きは人々が
はるか昔から同じ夢を見ているのだと歌う
そいつをポケットに入れて
自然公園のベンチに腰を下ろし
出鱈目な口笛を吹いていた
ポエジーはとめどなく零れ落ち
掬い上げる暇さえなかった
コートの袖はほつれていて
強い冬の風で踊り続ける糸くずは
しょっちゅう気持ちの悪い虫のように見えた
商業利用されるジョンレノンの終わり
数日前
この地方には珍しいほど降り注いだ雪のあとが
歩道橋やビルの合間で
蓑虫のように死のうとしていた
世界は常に塗り替えられる
ろくに変われないのは人間たちばかりさ
川岸すれすれをずっと走っているボート
なにかを探しているのだろうか
それともボートで居ることに飽きたのか
だとしたら随分未練がましい行為だ
冷たい横風を受けながら橋を渡ると
太陽の光は壊れた万華鏡を覗いたみたいに屈折しながら生きていた
音楽を聴きながら部屋の天井を眺めていると
すでに幽霊になっているのだという気がする
ある意味で俺は
生まれてからずっとそんな時間を望み続けていたが
いざそうして憧れの中に腰を据えてみると
思っていたほどのものではなかった
直感のみで評価されるニュースとゴシップ
人々の思考は最早
ファーストフードと同じ速度が望まれている
パン、パン、パンと
玩具の鉄砲のようなリズムで
すべてが決定されては後ろへとやられている
俺はインスタントコーヒーで喉を焼きながら
今日書こうとしているものについて考えている
やり続けているとある時、すべてのことに飽きてしまう
川岸際をずっと走っているボートみたいに
少しやり方を変えてみることは必要なことなのだ
人間のリズムは
決して理想にぴったりと寄り添ってはくれないのだから
アナログ時計の針がひとつ動くときの振動を
そうさ、同じ壁のそばにいれば
そんなものを時々簡単に聞くことが出来るんだ
世界はもっと
細かく切り刻まれて検分されるべきだ
周知の事実、なんてものに真実はひとつも無いのだから
取りこぼした詩のなかに本当は
取りこぼした詩のなかに本当は
書かれるべきことがあったのだと思うたびに
俺はなんて迂闊なのだろうと歓びのように感じるのだ
その時拾えなかったもの、その時気付けなかったものたちが
こうして俺をここまで生かしてくれたのだから
俺自身まだそのことにきちんと気付いてはいないが
俺自身の終わりは確かに近付いている
けれどそんな終わりの予感は
これまでで一番確実な始まりのようにも感じるのだ
躍起になって指先を動かしていた頃よりもたくさんのことを
一度に焼き付けられるようになった
それはおそらく
俺という個体の確信が意識のすぐ下まで浮上しつつあるせいだ
君よ
終わりは一度しか来ない
一度きりだ
それは選べない
いつそれがやって来るのか
ほとんどの場合には教えてはもらえない
農夫のように言葉を植え付ける
背中を丸め、目を凝らして
手持ちの言葉がひとつも無くなるまで
もう答えなど探す必要はない
悟りなどその時々の嘘だと
とうの昔に知っているのだ
与えられたもの、選択したものを
幾つかの決意の中で
ひとつひとつ残し続ける
足跡はすぐに消えてしまう
人生は柔らかな砂だ
瞬間が永遠になる為に
それが最も
らしい理由と言えばそうかもしれない
多くのものは失われるに違いないが
かけがえのないものは必ず残されるだろう
夕暮れが始まる
俺は溶け込むとしよう