夜にねむる
室町

日が暮れると
わたしは
狭い箱から
空気の清明な夜へ押し出されていく
怪物が羽を広げたような空の下には
わたしの知らない家の物語が
きちっと
方形にならんで
静まり返っている
夜はときどき声をふるわせ
湾岸からの風を吹きつけてくる
サイレンの音
酔っ払いの哀しき歌声
熱い麺汁を啜る人の吐息
傷つき死にゆく者のかすかな物音も
ここでは
みな一幕の舞台にすぎない
降る星々のもと
百色の百の水鏡がゆれる疏水の水を切り
ゆるりと浮き舟はゆく
夜よやさしくあれ
そう願うと
夜はやさしく静まる
夢が降り積もったものが
夜ならば
夜は色彩ではなく歌声である
夜が歌で
夢が舞いならば
もう詩はいならないと
ひそかにつぶやき
じぶんがつぶやいたとも知らずに
夜を抱きしめて
朝がくることも忘れて
ねむっている






自由詩 夜にねむる Copyright 室町 2022-12-25 02:25:08
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