キングジョー(ウルトラセブン)
角田寿星

                    
風に揺れるさとうきび畑 水牛は浅瀬をわたり
メカニックの少女が額の汗をぬぐいながら
空を見あげるまなざし
水平線のあわいに浮かんでしずむ
そこは時間の止まった星で ぼくは
からだごと吹き飛ばされて
君と繋いでいた左手だけが残った

あおく透明で
ほんとうにきれいだった
ああ どうして思い出は
こんなにも美化されたがるんだろう

とも

りゅうこつ
らしんばん

四艘の船はアステロイドの波を越え
青くうつくしい君の星へ
ぼくのすすむ道はいつだって
そこが 命の遣り取りの場になる

異郷の仲間たちは同じことばをしゃべった
死者の叫び声は色濃く漂っていた
あらゆる賃貸アパートには
琉球人と朝鮮人は入居お断り と
書かれた紙が堂々と貼ってあった

ためらいはなかった
始めるきっかけは何だってよかった
ペンは核兵器より強いのか
そもそも強いとは正義なのか
そんなことは
人生が終わってから考えればいい

やかましく扉を叩く音は
君だ

キングジョー
ペダン星のスーパーロボット
それはものいわぬ怒り
それは圧倒的な抑止力
ただ ただ破壊し尽くすもの

超合金の装甲は
地球防衛軍の迎撃をはね返し
ウルトラセブンのエメリウム光線も
アイスラッガーも寄せつけない

故郷に現存する
宗主国の軍事拠点には
探知不能な立入禁止区画があって
いくつものセキュリティをくぐり抜けた
さらなる深奥に格納されて
ぼくはいる

南の空にひときわ明るく輝く星が
あるいは星が
かならず輝くと信じてうたがわず
昨今の灯台は完全オートマタ化され
ロボットの采配する恒星となった
南へ 西へ 南へ
ろくな航海術も天文知識も持たないまま
ただ やみくもに進んでいった

やかましく扉を叩く音が
君であってくれたなら

直立不動のまま
キングジョーは稼働を停止した
唯一の弱点である
ライトンR30爆弾を打ち込まれ
火花を散らしながらゆっくりと
倒れていった

その手をけして離しはしない
夢はかなったのだと くりかえし
くりかえしみずからに言い聞かせ
なおも渇きに苦しみ
太陽系に吹く風はことさらに強く
酒ですべてを紛らわした

ひとのことばで歴史をかたろうとする
ひとの歴史をことばでかたることの
むなしさとごうまん
繋いでいると思っていた左手が
異次元の向こうで 空を切った

やかましく扉を叩く音がきこえてくる
君が扉をやかましく叩く音
扉のやかましい音は君が叩く
音は叩くやかましい君の扉
叩く君の音は扉がやかましい
扉を叩く 音は叩く 君が叩く
やかましくそしてやかましい

やかましく扉を
叩く音が


自由詩 キングジョー(ウルトラセブン) Copyright 角田寿星 2022-12-20 13:34:20
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