エインスベルの逡巡(七)
朧月夜

「貴女は、わたしが世界を滅ぼすと言うのか?」と、エインスベル。
「そうです」クシュリーは、きっぱりと言い切った。
「しかし、わたしは貴女を救った。わたしが世界を滅ぼすのであれば、
 貴女の命を救ったりはしなかっただろう」

「わたしの命など、いかほどの物でもありません。
 貴女がこれからなそうとすること、していること、
 それが、世界を破滅へと導くのです。まずは、クールラントから」
クシュリーの言葉は、ある種の重みを持っていた。

そして、それは預言のようにも思われた。エインスベルは、
そのような運命論に対して反発を抱く。己の意志なくして、何の運命かと。
しかし、エインスベルはクシュリーに反駁する言葉を持っていなかった。

エインスベルは、今クールラントの国に政変を起こそうとしていた。
それが、蝶の羽ばたきのように、世界に嵐をもたらさないとも限らない。
そのことは重々承知しているエインスベルだったが、そこには迷いもあった。


自由詩 エインスベルの逡巡(七) Copyright 朧月夜 2022-12-19 20:40:51
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クールラントの詩