テレスドン(ウルトラマン)
角田寿星

                     
たそがれの空にひときわ明るく
かがやく星を子どもたちは指さして
あれは ウルトラの星
後ろすがたが
まるで祈りを献げるかのよう

ちがうよ。あれは宵の明星。
きみたちのすぐとなりにある惑星だ。

今夜は
しし座流星群
ながれぼしに願いを三度となえると
必ず かなう
教えてくれたのは地上の友だち
テレスドンのシルエットが
満天の星空を覆い尽くす
瑪瑙 サーチライト 月長石

地底湖に
ほそくながい金剛のすじが射して
二分間だけ月が浮かび 消える
ながい間 ぼくの宝物だった

テレスドン
ふとい腕とながいクチバシ
おまけに全身がきれいな土のいろ
いのちを賭けて
おそろしい光の巨人から護ってくれた

「凄いヤツだ…
 ナパーム弾ではビクともしない

銀色の巨人が放った
ベーターカプセルの閃光は
一瞬のうちに地底帝国を壊滅させた
あの 身も心も焼き尽くす凄まじい光
帝国が元戻りになりますように
みんなが還ってくれますように
眩しすぎる夜空が直視できない
三度願いを籠めるあいだに
流星群は消えた

テレスドンは 光の巨人
ウルトラマンに殺されたらしい
あれほど剛健だったテレスドンが
投げ飛ばされて
雄叫びひとつ揚げることなく
しずかに眸を閉じた という
ぼくはテレスドンをさがし続けた
苔 水晶 カンラン石
石筍 鉱山跡 永久凍土

地上の友だちが見つけてくれた
テレスドンは
目も虚ろで クチバシはぼろぼろ
見事な鳶色の肌はすっかり汚されて
「たたかいによわく
 かったことが ない
信じられない解説のおまけ付き
だった
テレスドンは死んだ
テレスドンは死んだんだ
ぼくは
テレスドンを
忘れた
絶対にわす れない
テレ スドンのきお くはぼくの
こころのお くにのこった
たった ひとつ の たから も


(冬の霧吹山は夜になると
 冷気が貼りついて月明かりさえ届かない。
 いちめんの雲母の闇。消え入るように歩く大きな翳は
 大怪獣 デットンだ。
 赤黒い血がこびりついた ぼろぼろの背中に
 ちいさな地底人の子どもを載せて。
 眠っているのか デットンの背中に頬を埋め
 微笑んでいる 退化した眼 土色の頬 泪の痕。
 音もなく霧のむこうに去っていった
 という。


自由詩 テレスドン(ウルトラマン) Copyright 角田寿星 2022-12-18 10:39:13
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