すべてはじめから
ただのみきや
低い天井に音楽が響く
裸の天使の鳥籠のよう
ひりひり見開く傷口
冷凍肉のかたまりに
ガラス金属プラスチック
カラフルな鋲をボウルいっぱい
焦点を拒む視線
ただ瞳の中にゆれる灯が
焦がす空気のくちびるに
ふれる指先は蝶のよう
つかまえられない残像との戯れ
灰をまさぐる祈りと共に
*
薄暗闇に街灯のよう
雪を被ったナナカマド
たわわな赤に触れる仔の
ひとさし指の切なさを
鴉がおおう夕間暮れ
頬は端境の樹木に似て
街にかかった大きな月も
離れて上れば小さく見えて
そぎ落とせばそぎ落とすだけ
人であることの赤裸々
頭蓋をこじ開けて仰ぎ見る
降る羽根黒く血は青く
*
ひとつの死に群れる虫
静けさも目に騒がしく
花火のようなことばなら
照らす頬も巡りが良い
だが風が窓を鳴らす夜
出口を求める死者の声は
鳥籠の中に自由は住まい
見つめる者が籠に囚われた
軟膏と香油の中で溺れている
癒すべきは恥部と肥やし続けて
置き去りにしたあの影は
きみの創作でわたしじゃない
*
眠りは老婆の姿で訪れて
わたしの夢を吸い若返る
水の周りをさまよって
出口を感じて持ち出せない
会話を誰かとかわしている
翼のない背中を咬んで
《2022年12月17日》