バラス山
ちぇりこ。
西陽の傾く校庭で子どもたちが
次々と爆発霧散してゆく
明くる日には
何も無かったかのような顔で
それぞれの席に着くので
教室にはいつもきな臭い
硝煙の臭いが充満していた
(働く手を知っている
(大きくて黒くて
(汚い手を知っている
学校の裏手は
いつでも夏への入口
白い砂利道が
バラス山と名付けられた
採石場の跡地まで続いてて
ぼくの産まれるずっと前に
そこは廃山になったんだけど
腐れかけの果実が
皮をべろんと剥かれたような
地肌を晒す山の斜面は
だらしなく放置され
ひょろ長い鉄塔は
ぽつんと置かれる救世主みたいで
その足元に横たわる
コンクリや金属の
建物の屍肉に植物が群がっている
真っ昼間だというのに
蛍が一匹
錆びた獣の隠し持つ
鋼鉄の爪の先にとまってるよ
その獣はね
人の気配や発破の音がしないので
もう目覚めることは無いんだ
なんて、か弱い光、蛍
ねぇ、きみは知っているの
夏の終わりには悲しみのうたが
バラバラになって落ちて来るのを
ぼくら夏に産み落とされた
頼りない力こぶ
(バラス、バラスト、バラス山
(捨て子にされた
(要らない子
その獣はね
発破の音で蘇生するんだ
だからぼくたち
夏の終わり
ありったけの火薬を持って
あの山の入口に立っていた
立ち入り禁止のロープは
やる気なく弛緩して
だらりと地面についている
儀式の始まりは
爆竹20連発で
ぼくらには持て余す
ありったけの火薬でも
発破の音には届かない
どんなに火をつけても
届かない
ひょろ長い救世主に
鋼鉄の影絵に
夏の終わりに
爆竹が
ささやかな火花を散らすだけ
動かないベルトコンベアの上に寝転んで
雲と雲の隙間にぽっかりと
置き去りにされた青を見る
やがて雲に覆われて
雨の匂いを運んでくるんだ
泣いてる暇なんてないぼくたちの
毎日はぶっ太いベルトコンベアで
次々と運ばれて
運ばれた先で掘削されて
そうやって
何かを少しづつバラしながら
暮らしてゆくのだろう
いつかは止まってしまう
ベルトコンベアの上で
暮らしているのだとしても
ぼくたちは
ありったけの火薬を持って
あの山の入口に立つ