星空学級
ちぇりこ。

理科の授業で実験のある時に限って
やたら目を輝かせていた小林くんは
セイタカアワダチソウの
蹂躙する広場で消息を絶った
缶けり鬼の高く蹴り上げられた缶は
とうとう落ちて来なかった
少し遅れて落ちてきた風が
広場の草草を揺らしている
陸上の生活に馴染めなかった
魚類の心臓のようにびくんびくんと
脈打つ草草の群れに混じって
揺れている吉田くんがいたので
小林くんはどこに居るのか訊ねてみた
吉田くんは揺れながら真上を指さす

健やかな子どもの膝の裏がわには
UFOの秘密の発着基地があって
しばしば寝相の悪い子どもは
窮屈な寝返りをうつようにして
とても小さな粒子になる
微小粒子状物質になった子どもは
大気中を漂い星空学級へと編入される
星空学級ではガス状の教壇の上に
環状の先生がいらっしゃる
M57と書かれた名札を
ぶら下げていらっしゃる
先生の周りには名前の知らない
小さな子どもたちが奇声を上げながら
ぐるぐる回っていて時折り先生に向かって
ふぅ、と息を吹きかける
先生の体は気体なので
一瞬ふわっと四方に拡がるが
程なく元の環状に戻る
その様子がおかしくて
子どもたちは次々と先生に向かって
息を吹きかけてゆく
こらこら、と先生は窘めるのだけれど
子どもたちがあまりにも強く
息を吹きかけるものだから
星空学級の全体は
先生のガスで充満される

浮かんでいる星空学級の片隅に
田中さんとよく似た女子が
口から糸を吐いて紡いでいる
小林くんは
田中さんとよく似た女子の
紡いだ糸の束を持って
先生のご指示通りに
星と星の間を繋いでゆく
あまりにも糸の量が多くて
せかせかと何往復もするので
疲れた小林くんは不満を口にするが
その度に先生から
「星を知らない子どもたちの
大切な道しるべです
知らない夜空で迷わないように
示して上げるということは
とても重要なことです」
と説得されてしまう

その夜
糸の束を抱えた小林くんが
星と星の間を
忙しなく往復する姿が
沢山の人に目撃された
次の日渡り廊下で小林くんとすれ違う
小林くんは星空学級のことは覚えてないという
小林くんの髪の毛から
焦げた砂糖菓子のような匂いがして
体は少し透けていて
深い藍色の銀河のようなものが
体の中心でゆっくり回っていた

小林くんは大人になって
星雲関係の仕事に就いた


自由詩 星空学級 Copyright ちぇりこ。 2022-12-09 18:32:43
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