水の地をすぎて Ⅲ
木立 悟





地図を描こうとすると
夜は止まる
胸も水も
苦しくなる


鏡に映る
さかさまではないもの
最初から最初から
さかさまなもの


夜の皮をつかんで伸ばし
夜ではないところに付けるとき
硝子のみに映る雪
地の水のみに映る雪


右に左に傾きながら
がらくたの塔は立っている
どこもかしこも
気が狂うほどに平等でいる


あなたは雨 あなたは雨
手が到くところまでの雨
無限ではない欠片が
無限の重なりを作る午後


水没した公園のむこうに
家と庭と午後があり
残ることのない光の声を
水面の風を見つめている


昨日はまぶしく見えなくなり
今日は哀しく忘れ去られる
欠片が作る水の径
重なりひらく無音の午後


金と緑の光が降りて
指のかたちに額をなぞる
いつしか雨の音に消される
吐息 足音 鼓動 歌声


忘れものを拾い歩いて
自分の頭の上に着く
それでも地図は終わらない
それでも午後は降りつづく























自由詩 水の地をすぎて Ⅲ Copyright 木立 悟 2022-11-21 19:50:41
notebook Home 戻る