物語
岡部淳太郎

確かに
すべての物語は 語られた
それは真実
疑うことの出来ない 真実
だが
人々の ひとりひとりの
それぞれの物語はいまも
日に
夜に
生まれつつある
やがて
歩くものとなる物語
やがて
すべるものとなる 物語
それらひとつひとつの物語を
踏みつけてはならぬ
ひとつずつでは微小な物語も
すべて集まれば
巨大な
人類の新しい歌となる
確かに
すべての物語は語られた
だがいまも
すべることでしか自らを確かめることが出来ない
存在が
静かに息づいている
淋しいよう
夜のすきまから
声がもれ出ている



連作「夜、幽霊がすべっていった……」


自由詩 物語 Copyright 岡部淳太郎 2005-05-07 09:59:41
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夜、幽霊がすべっていった……