ゾーン
ひだかたけし

燃え立つ光、アフリカの太陽
肉を感じ、自らを感じる
愛の交わり、この肉を産み
名もなき通り*1を歩いて歩いて
一足の靴*2、色褪せ輝き

造形され、濃密に 在る


過ぎ行く時に、

理念を刻み込む、
光景を呼び込み

来るべき時に、

理念を呼び込み、
光景を刻み込む

野蛮に冷静に、温かく見つめて、
この響き合う狂暴な世界を

  *

浜辺の傍の
石階段の村の朝、
緩やかに開ける青空に
幼子の手にて
一枚の紙飛行機、白く飛ぶ
お爺さんが怒る、
光る瓦屋根に
紙飛行機、乗っかり
お爺さんが怒る!

浜辺の傍の
石階段の村の夕べ、
波は打ち寄せ
しずか
茜に染まる空、
匂い立つ磯の香、
貝殻を拾い集め
蟹の横踊り、無数無数
走り去る姿を
幼子は追って追って

不思議な時の流れは
ゆっくりひろがり縮んで倒れ
今にゆったり身を委ねる時、
尊い光景が浮き上がる

記憶の
紙飛行機、お爺さんの怒声、貝殻に纏いつく磯の香、蟹の横走り

わたしは初老を迎え
ゾーンに浮き立つ、
キオクの光景を
刻み進む時間に掴む

時を陥れ、直線を割り 
留まる瞬間を剔抉するのだ、

この私の運命をスローモーションで遡り!

  *

燃え立つ光、アフリカの太陽
魂を感じ、自らを感じる
善き意志、この魂を導き
名もなき通りに生まれ
開いた聖書*3、闇に浮き立ち

造形され、濃密に 在る

過ぎ行く時に、

突然 顕現する 理念の端くれ
直観の無限は 未知を呼び込む
イマジネーションは躍り
瞬間の光景を立ち上げ
過去から未来から到来する、
一つの理念と光景を取り戻し




広がる星空が
闇の雪原に
星々は巨大に輝き
迫り来る、

独りの少年に 独り人に

肉は魂は眼差れている、
常に不断に この宇宙に

私たちの人生は続いていく

上昇しながら下降し、
下降しながら上昇し、

直観されるモノをより高く
感受されるモノをより深く












*1 U2『Where The Streets Have No Name 』より引用

*2 *3 ゴッホ『一足の靴』『開いた聖書と燭台と小説のある静物』より引用



自由詩 ゾーン Copyright ひだかたけし 2022-11-10 19:03:44
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