脱出(十二)
朧月夜
その時のエインスベルの顔は、美しかった。
切れ長の目が、その端に涙を湛えている。
アイソニアの騎士と、二度とは会えまいと思っていた、
そんな心情が顔つきにしみ出しているように思われた。
「アイソニアの騎士よ、あなたはわたしの傭兵だった時代とは違う。
今は、アースランテの兵士たち、国民たちを率いる身、
今回のことは、どうかあなたの胸のうちに止めておいてほしい。
やがて、クールラントとアースランテは再び戦うだろう……」
「待て、エインスベル! 俺はそんな諦観には与しないぞ。
この世は、平和をもって満たすこともできる、十分な器を持っている。
第二次ライランテ戦争など、決して起こしてはならない。そうでなければ……」
「あなたはそう言うが、事はそう簡単でもあるまい。現に、
祭祀クーラスはアースランテに内政干渉をしようとしている。あなたを、
かの国から引き離すためだ。行くが良い、アイソニアの騎士よ。心が赴くままに」
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クールラントの詩