脱出(十)
朧月夜
「俺には礼を言ってくれないのか? エインスベル」
アイソニアの騎士が、咳払いとともに、憮然とした表情で言った。
「あなたは、敵を倒すのが仕事。今現在の行いも、
あなたの通常業務を外れるものではありますまい」と、エインスベル。
「それに、今回あなたはヨランと契約をしたのでは?
もしそうなら、ヨランがすでにわたしの礼を受けている」
「エインスベル様……。何もそこまで。アイソニアの騎士様は、
この冒険の間中、わたしの対等なパートナーだったのですよ?」
「この世は契約で動く。アースランテの千人隊長ともなった男が、
私情で行動するなど、本来はあり得べきではないことであろう?」
「そうかもしれませんが、やはりここは騎士様にもお礼を……」
「分かった。ありがとう、アイソニアの騎士よ。そなたのおかげで、
わたしはこの監獄を脱出することもできる。そして、リグナロスも」
「ちぇっ、俺は結局次いでか」アイソニアの騎士は、ぽりぽりと頭を掻いた。
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クールラントの詩