Sea of Love
ちぇりこ。

笑いながら枯れていった
夏草の影は
種子を残さなかった
わたしたちの手のひらには
やがて海が降り始めた
砂の建築物がぽつぽつと建って
線路が敷かれた
私鉄沿線沿いの小さな部屋で
わたしたちは小さく暮らした
晴れた日の洗濯物には
フジツボが付着して
夜はフナムシの侵入に怯えた
わたしたちは小さく寄り添い
お互いの皮膚を剥がし始め
剥がれた皮膚は小さな海になり
わたしたちの手のひらは
海で満たされた
侵食されたもの
湾曲した猫背の海岸線
鎖骨の窪みに夏草の
あおい草原がひろがる
種子は残さなかったのに
小さな夏がやってきて
笑う、夏草の影
種子は残さなかったのに
わたしたちはお互いの
両腕を食べ始め
暮らしには必要なこと
夕立のあとの
微炭酸の空で呼吸する
いつか
両腕を失くしたわたしたちは
なるべく小さな朝を迎える
そして両手を欲しがる
あなたの手のひらから
羽ばたいていったものがある
季節を跨いだ海鳴りが
目の前で風化する


自由詩 Sea of Love Copyright ちぇりこ。 2022-11-07 19:00:58
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