ち、に濁点
たま

ち、に濁点を打ちたいけれど
だ、ぢ、づ、で、ど、の
だ行の打ち方をすっかり忘れていた
ち、を打って、濁点を打って
ち゛にすればいいのか
でも、そんな打ち方だと
縦書きだったら
ち、と濁点がつながらないはずだ
なんて、まるでパソコン初心者だった
つまり、ぼくは
痔を、ひらがなで打ちたくて苦労している

年老いたのだろうか

まだ三十代だったころに
ぼくの人生を変換するために
痔の手術をしたことがあったけれど
まさか、二度目があるとは思わなかった

六月にひどい便秘をして
ぼくのデッドポイントである
痔を壊滅的に痛めてしまった
海水浴場のアルバイトは人手不足で休めなくて
ちっとも治まらない痛みに
坐薬をいっぱい詰め込んで
ようやく九月には少し治まったが
やっぱし、
もう一度、手術するしかないなと思った

日帰り手術が、あるというのだ

医学は日々進化して便利になったものだ
と、思ったけれど、
医学と、便利なものは、繋がらないみたいで
日帰り手術の、後日には
悪戦苦闘のセルフケアというか
セルフサービスというか
とんでもない治療が待ち受けていた

たとえば、浣腸

術後のアナはふだんの三分の一しかない
浣腸をするにもそのアナが見つからない
セルフケアだから、お尻に指をあてて探すのだが
アナは糸で結紮された三つの痔核に隠れて
なかなか見つからないし
うっかり痔核に触れると痛みが走る
痔核が三つと、裂肛がひとつ
かなりの重傷だったみたいだ

手術前から浣腸を渡されていた
練習しといてください……
と、医師がいう
蛇腹の管が付いた
安めの灯油ポンプみたいな
異様なかたちした浣腸だった
しかも、
排便してから浣腸してください……
と、いうのだ
排便できないから浣腸なのに

そんなアホな
と、思った

手術は三十分ほどで終わった
術後は麻酔が効いていて
まったく痛みがない
あ、これは正解だったかな
と、思ったけれど
まさか、アナが消えているとは思わなかった
もし、排便できなくてウンチが詰まったら
死ぬかもしれない
と、ほんとに思った

寝る前に赤い下剤一粒と
ツムラの便秘薬を一包飲んで
朝は座椅子に横たわって浣腸する
讃岐うどんのような細い便がひと玉ほど出ると
ほっとするが
ふた玉でも代金はおなじのうどん屋を思い出して
もう一度がんばって浣腸する

完治するには早くてひと月
ことしは自転車に乗れないかもしれない
海水浴場のゴミ拾いはしばらく徒歩だ
やれやれ、
日帰り手術なんてもう二度とやらない

それにしても、
ち、に濁点だなんて
人生の縮図を見る想いがする
つまり、
老いるということは
血、を汚すことなのだと









自由詩 ち、に濁点 Copyright たま 2022-10-25 10:21:34
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