欲望のもとにすべては引き裂かれる
ホロウ・シカエルボク


本当の破壊衝動はいつだって自分自身のはらわたに届く衝撃を待ち続けているものだ、それが芸術の本質だと言ったらお前はどんな顔をするだろうか、そこにどんな答えがあろうと俺の認識が歪むことはないだろう、なぜならそれは俺が人生のほとんどを継ぎ込んで得たものだからだ、人が生き急ぐのは照準の存在に気付けないからだ、気持ちをなだめ、目を見開けば多少の時間はかかっても必ず見えてくるものなのに…気付けないからスピードを上げてしまう、ゴールなど何処にも無いのに、急げば簡単に手に入るものだと考えてしまう、愚の骨頂だ、見苦しいもんだぜ、人生は街の喧嘩じゃない、威勢が良ければなんとかなるというようなものではないんだぜ…破壊衝動において一番の問題はなにか?それは手当たり次第に壊しにかかってしまうことさ、壊さなければならないものは必ず定められているというのに―ゲームと同じさ、正解を見つけ出すことが出来なければ、ずっと同じフィールドの中をうろつき続けるだけになってしまう、お前の周りにだってそんなやつはたくさん居る…いや、この世界に生きている人間たちの大多数はそういうやつらさ、目的を持たず、個を知らず、周囲に染まり、あてがわれた役割をこなして老いることに終始するやつら…彼らが本当に哀れなのは、その方法以外にないと本気で信じていることだ、それは照準の合わせ方を知らないからさ、だから、もっともピントの合いやすいものに落ち着いてしまう、俺は小さなころからそんなやつらが不思議でたまらなかった、あてがわれた真実を自分の真実のように語るやつら、陸の上の船に乗って、海に漕ぎ出すこともないのに世界を知っているように話すやつら―現在、現在という存在、そいつらは、疑問符の前で立ち止まることを許さない、そんなところで立ち止まっている暇などないぞ、言われた通りに動け―そんなことについて考える暇などお前にはないはずだ―考える隙を与えず、与えるものを享受することだけを教え込み、やがて疑問符は生まれなくなる、そうしてそのまま歳を取り、横に居るやつとほとんど違いの無い人間になってしまう…俺は彼らの目を恐ろしいと思った、なにを映し出すこともない、生まれたばかりの犬のような天鵞絨のような目、社会性以外のすべてが排除されたかのような思考、そうさ、それはまるでこの国の思考そのものだ、金の回る街ばかりが生き残り、それ以外の場所は廃れて失われていく、本当はそのすべてに人が居て、それぞれの生活が存在して然るべきなのに…この世界はいつだって十枚程度のカードでババ抜きをしているのさ、使わないカードは破られて隅に追いやられているんだ、そうしてそのまま忘れ去られてしまう、本当はすべてのカードが揃っていなければゲームは成立しない、それなのにプレイヤーたちは、それでいいんだと信じて疑わないんだ…俺たちはもう一度、自分の命について深く考えてみるべきさ、ルンバのように設定どおりに動き回ることが正しいのだと信じてしまったら、そのあとの人生はひとつの本の同じページだけを何度も何度も読み直すようなものだ、自分自身の手で手に入れたものでしか、自分自身の人生は築けない、そんなことが―あいつらはなぜ、そんないかがわしいゲームから降りようとしないのだろうか?生活や、面子や、家族や、支払いのため?一度じっくりと考えてみるといい、そのうちの幾つが自分自身にとって大切な事柄なのか…仮にそのどれも捨てることが出来ないとして、そいつを維持し続ける方法は、いま信じているそれしかないのだろうか?とはいえ、一度そこに立ってしまった連中にそんなことを呼びかけても無意味かもしれない、彼らの耳はすでに半ば閉じられている、生活を回すのに必要な単語以外、その耳に届くことはないのだ…俺は昔、そんなことは間違っているんだと何度も叫んだ、でも、間違っているのは俺の方だった、彼らの耳はすでに半ば閉じられているのだ、俺は、自分の信じる人間の定義に基づいて彼らに呼び掛けていた、でも、彼らにとっての人間とはそもそもそんなところにはないものなのだ、巧妙に仕組まれた、人を傀儡にするためのシステムが存在している、社会が成長を求めれば、人間そのものは成長を止めざるを得ない、俺の言っていることわかるか?本当はそれはとても不自然なことのはずなんだ、だけどそれが当たり前のように成り立ってしまう…彼らは自分以外のなにかを崇拝することが得意だからね―俺はいつしか彼らに向けて呼びかけるのをやめた、どんなに声を張り上げたって、どんなに巧妙な手段を用いたって、それは絶対に届くことがないものなのだと理解したからだ、そして、この世界が、それ以外の人間というものをまるで必要としていないことも―そう、だからこうして、自分自身の為にしぶとく生き続けているというわけさ、だって俺のはらわたは、まだ衝撃を欲しがって喚き続けているのだもの。



自由詩 欲望のもとにすべては引き裂かれる Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-10-24 21:57:40
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