cross road/秋の不在証明
ちぇりこ。

「弦楽四重奏をついうっかり
公園のベンチの上に置き忘れてしまいました
どなたかに拾われてしまったのなら
諦めて下さいな」

銀杏の葉っぱの黄色い成分と
手編みの夕陽を丁寧に織り込んだ
ニットの老夫婦が、夕凪の渚で波に解かれ
水平線に引き寄せられて橙色に分解されてゆく
ああ、渚へ打ち上げられてくるものは
漁火の幽霊でしょうか、水にあって、なお
燃え盛るというものは、どんなにか
骨の折れることでしょう

「宛名のない書簡を手に持ったまま
配達人は十字路に立ちつくす」

古いオルゴールの蓋が開いて
胸に穴の空いた小さなお人形が
行方知れずになりました
風の扱いには長けていたっていうのに
単音の旋律で
主の胸の穴を埋めていたっていうのに

(いーのこ、亥の子)
子らの輪っかが激しく回るよ地面を鳴らして
狐のお面を被った坊主頭を最後に見たのは
銀色に光る原っぱ辺りだったでしょうか
芒の穂が手招きしているよ
赤い鳥居の向こう側
(いーのこ、亥の子 亥の子餅ょついて)


秋の不在が、行き交う十字路で
耳を塞いで静かに暮らす

そろそろ冷たい風の吹く


❈()内「亥の子」
西日本地方に伝わる童歌


自由詩 cross road/秋の不在証明 Copyright ちぇりこ。 2022-10-22 21:51:02
notebook Home