ノイズまみれで抗え
ホロウ・シカエルボク


内奥の、混沌の回廊の中でフォー・ビートで蠢く魂はもはや臓腑だった、身体的な意味でのそれとは違う心臓を持ち、不規則な鼓動を鼓膜の辺りに打ち上げ続けた、だから俺はそれを書き留めなければならなかった、なにかしらの意味を偽造しなければそいつと付き合っていくことは難しかった、だからそんな繰り返しが俺自身の歴史となった…こんな話をして誰が理解してくれるだろうか?時折はそう考えることもある、しかし、往々にして、俺は理解してもらうことを望んではいない、俺は極端なまでに俺自身でしかない生き物であり、他の誰かに理解出来るような代物ではない、なにより生きる過程において、理解だの認識だのといった能力、あるいは結果はさほど必要なものではない―あるといくつかの事柄は簡潔に進めることが出来るかもしれない、でもそれは絶対的に必要なものではないということだ、多くの認識や見識、あるいは知識などというものはそのほとんどが間違いであり、自分の、あるいは他人の仮説を現実的なものに偽装せんと構築された理論でしかない、なに、悲観する必要はない、世の中はいつだってそんなことの繰り返しで出来ている、知を誇るものの愚かしさなど、ここであらためて説明するようなものでもないはずだ、人間は百年程度しか生きることは出来ない、そんなお粗末なものの中で得る確信にどれほどの価値があるだろうか?そんな自分に己惚れる暇があるのなら新しい書物のひとつでも開いてみる方がずっといい、過去を捨ててはならないが縛られてはいけない、それは生きる上でのサンプルに過ぎない、同じことは二度とない、次は…などと考えることなど無意味だ、同じことがない理由はひとつだ、それは見たことがあるという意味で…見解がすでにある、というような意味だ、それがないのなら、もしかしてそれは同じことだというふうにとらえることも出来るかもしれない、でもそんな真似が出来るのは死体か死霊くらいのものだ、そして、死体だの死霊だのというものは同じ時間を繰り返すために存在している、止まった時計が刻み続けている時間のようなものだ、それは文字盤の上では同じ時刻かもしれないが、現実の上でまったく更新されない止まった時からの時刻だ、動き続けている時計が刻んだものとは大きな違いがある―臍から刃物を刺し込んで、内臓を引き摺り出して見せるようなものだ、取り出した瞬間にそれは、同じはらわたではなくなってしまう、それが言葉であり、詩である…だからこそ俺たちはこぞって言葉に群がり、食らいつくそうと顎を鳴らすのだ、そこにはある種の快楽のようなものがある、自殺者のカタルシスと例えるのはペシミスティックに過ぎるだろうか、だけど詩人の本質なんて必ず、死体写真のようなものと同じだというのは動かしようのない事実だ、感情、感覚、そういうものを葬るために言葉は綴られる、遺言や、遺書のようにそれらは飾られる、だから俺にはそうしたものをわざわざ記す必要がない、それはすでに書き上げられているし、更新され続けている、その景色にまつわる新しいものが書けなくなったその時に、目を閉じて棺の中に横たわればいいだけだ、昔は何もかも明快であるのが真実だと思っていた、すべてにきちんとした答えがあることが正しいのだと、けれど、それは結局のところ自己満足に過ぎないのだ、答えなどどこにもない、本当に目の前にあるものがすべてなら、そのことを知ってからにするべきだ、見えるままではない、けれど、見えるものを疎かにしてはいけない、その上で、目の前にあるものを静かに見つめてみればいい、百万の要素、百万の答え、その混沌の中を潜り抜けてきたあとでは、その景色は必ずまったく違ったものに見えるはずだ、原因も解答も理由ももう必要ではない、ただそれを求める過程を深化させていけばいいだけだ、実感が血肉に溶け込む前に、言葉に変えるような真似だけはもうしてはいけない、芸術はそこに飛び込むだけの覚悟が足りなかった、そうさ、いつだって足りなかった、どいつもこいつも、自分が描きあげた理想郷の中に、なにかしら意味のあるものが潜んでいると信じたくて仕方がなかったからだ、生涯を賭けて貫き通してきたものが、まるで無意味であるなんて知りたくなかったのだ、どいつもこいつもそれを怖がるから、自分を守るためのいびつな社会を作り上げてしまう、好きこのんでそうしたものから距離を置いたはずなのに、遠く離れた場所で同じようなものを作り上げてしまうのだ、よく覚えておくんだよ、怯えた連中はすぐに群れる、同じ話をする人間が側に居るなら、それは間違いじゃないと考えるのさ―もちろんそれは真実じゃない、群衆が作り上げてきたものがなんであるか、俺たちはすでに知っているはずじゃないか?彼らの誇りは寄りかかれるなにかがなければ成立しない、俺はそんなものすべてまがいものだと思った、だから、自分の脚で立ち続けることを選んだのさ。



自由詩 ノイズまみれで抗え Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-10-17 16:03:01
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