キオクの怪物
ひだかたけし
ぽつんと ひとり
つめたい かぜ
ふいてふきつけ
つーっ と 水
はだをつたわり
したたりおちる
母の腹の底に沈む
母の腹の其処に浮かび
六歳の美奈坊と絡み合った
五歳の僕の肉の陶酔に
草むらは深く緑に揺れ
崩れ落ちるように
意識は途絶える
それはたしかに
おこったこと
いくよもこえ
ふかいうみを
たゆたいおよぎ
べろりとしただす
かいぶつに
のみこまれては
はきだされ
いしきのしきいき
おしひろげられ
ぽつんと ひとり
つめたい かぜ
ふいてふきつけ
くさむらも、ははのはらも
今ではすっかり、枯れている
行く手には
恐ろしい怪物が
待ち構え
死んで生まれ
生まれて死んで
繰り返しながら
内なる思考の
恩寵の許
聖なる自我の旋律が
今日もこの脳髄に
遠く奥まり響き渡る