白ユリ~またの名をシルヴィ
菊西 夕座
幻想は果実をおおう皮のように一枚また一枚と落ちていく
――ジェラール・ド・ネルヴァル
森の奥、池のほとり、古城の豊かな眠りの中で
気高く咲いたササユリが歌う美声から私の夢はうまれた
陽は落ち、月がかかり、緑の芝生に夜露が光る舞台で
私の夢は月桂冠を編むようにササユリの頭上で恋を巻いた
花が閉じたあとも薫りつづける夢はヒメユリのつぼみに宿り
自然への礼賛とともに花ひらく伸びやかな歌声に励まされ
より悩ましく、より奔放に、理想の度合いを高めて匂いたち
ついには親しみあふれた牧歌的な故郷から遠く隔たってしまう
やがて都会の劇場で夜ごと咲く花にユリの面影を見いだし
足しげく通ううちに夢はいつしか思い出の小径をたどり返し
ともに薫じた菩提樹の影、ヒースの繁み、神殿の廃墟を越え……
懐かしいヒメユリの待ちわびた開花に恋の実りを重ねるが
目覚めるたびに私の土壌が抱いているのはササユリの幻
恋はもはや消えうせた花冠からこぼれ落ちる花びらでしかなかった