みらいゆき
すいせい


ぬかるみにまどろんだ
つきのはなしをしっているだろうか
雪はふりつづけ
ものがたりをせがんだこどもたちは
まだねむれずにいるというのに


わたしたちの王国のはなし
夜空をのみこんだやもりのはなし
尽きることなくおそいおそいうたを
しなやかに
こんなにも やわらかく
しにちかづいて いる


てふてふとあるく
ほこりまみれの部屋で
日記帳のようなたしなみは
やがてきえていくもの
あしあとのないあしおと
なかったことにすることがとても
かなしくて
ひをつければ
よるがひもとかれる


ことばは
かんたんにいいかえられて
しまうから
ゆっくり雪がふるように
忘れてはいけないひかりがある
だから


だれにもわからないことばで
わたしたちは話さざるを得なかった
暖炉に薪はつきて
さむさがはいのぼってくるのを
どうすることもできなかった
扉におおきな閂をかけ
どこへも逃げられないように
沈黙をはじめる


かぎりなく透明な目配せの中で
包帯に巻かれた午后が気球をあげる
ああ 画用紙に描いた熱が月を回るよ
わたしたちは遠く塩の湖をとぶ
たくさんの知らない言葉が埋まっている地平で
ただ訥々と笑みをこぼす水仙
うつくしい歯並びで空を噛む塩の柱
ひとつひとつと数える事しかできなかった
差し出された宛て所不明の手紙
かすれて読めなくなった消印に虫がしがみついて
わたしたちは
ただ枯葉になりたかっただけなのかもしれない
すり切れた毛羽立ちを揚力にかえて
けしてわすれてはいけない
それでも追いかけてくる正しい風の中で
どれだけほんとうの事をつたえられるだろうか
雪が
ほほをかすめ
雪だけが
かすめ


あかいめのこどもたちは
ねむることなくおとなになった
ぬかるみにまどろんだ
つきをみている



自由詩 みらいゆき Copyright すいせい 2022-10-05 19:42:51
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