散らばり
soft_machine

  *


締めるの
緩めるの

もっと灼くの
それとも見棄てて冷ますの

組んだ手を解き
窓に叩きつけたら
見えるだろうか、海
神さまたちの海


  * *


透明度の低い
防音網に透かして
届く建造物の呻き

今日も路地から
思い出が摘出されていた

そんな町を好きになる為には
わたしは自分を
明らかにしなくてはならず

自分を好きになる為には
人から隠した醜さを
見据えなくてはならない

傘のようなとめどなさ
やすりのようなさみしさ

沸騰中に
固められた硝子の細片が
名刺替わりの日常を


  * * *


あの日の窓には老松が見えた
名前も知らない
病に侵されていた松

みるみる蒸発していく内蔵を
野良犬に戻したかった
しかしわたしがその場を逃げたため
地面に残した印に和され

黒塗の鏡に投影された
黄金虫や
海月や小禽の
うぶ毛の微細な感触を

たのしみながら
弄んだのも
わたし

さっさと決めなさいと叫ばれ
残された時間も
水と共にある縁取りのむこう


 * * * *


慈しむの
食べるの

もっと棄てるの
骨はとっくに割れていたから
散らばる香りもまた美しい

あぁ、秋まつりだよ
お提灯が
お父さんの代わりに

揺れて
ゆれて

あの日のままに
ゆれて



自由詩 散らばり Copyright soft_machine 2022-10-04 15:02:41
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