新宿伊勢丹事件
花形新次

子供の頃
アントニオ猪木は
好きではなかった
好きだったのは
タイガー・ジェット・シンの方だった
新宿伊勢丹前の路上で
買い物帰りの猪木、倍賞美律子夫妻を
襲撃した
タイガー・ジェット・シンの
ラジカルさが好きだった
教師から尊敬する人を訊かれて
タイガー・ジェット・シンと答えて
イヤな顔をされたのを
鮮明に覚えている

全てはまやかしであることが
段々と分かって行く
それが
大人に近づくことだった

ミスター高橋の暴露本を読んで
ことのあらましを知った
結局子供の俺は
猪木の作ったアングルの中で
踊らされていただけだった

その猪木も亡くなった

しかし、俺は今も
まやかしの中で
生き続けている









自由詩 新宿伊勢丹事件 Copyright 花形新次 2022-10-01 19:22:55
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