戦う必要はない、ただ光を眼差し
ひだかたけし
さっきから
雨が降ったり止んだり
強風が吹いたり止んだり
台風の渦が東京に接近する
私は痛む両眼を指先で押さえる
この静謐な心を壊さぬよう
私は痛む両眼をそっと
クール宅急便のトラックが止まっている
ベランダの向かい下に止まっている
詩想せよ、詩想せよ
軒先を落ち続ける雨垂れに
遠い故郷を想起するように
背筋を伸ばし意識を醒まし
灰色に蠢く雲を凝視し
白髪が落ちる、天の光彩に
わたしは身一つの希望をみた
白痴のような美少女が通る
君は地の果てに住むようだ
純白のまま、無垢なまま
世間というごみ溜めを
両手を広げ渡ってゆく
短い時を花開き
一、二、三、四、
いち、に、さん、し、
シャケの切り身を生で喰う
肉の苦痛に性欲が高まる
時間を刻む荒い息
静謐な心はまだたもたれ
美しい二重の瞳が浮かぶ
暴力と哀しみと清澄を秘めた
ジョンレノンの肖像を観る
冷房が効き過ぎたこの白い小部屋に
わたしはひとりすんでいる
クール宅急便のトラックは去った
混沌の渦が接近する
荒い鼓動に、私は耐える
戦う必要はない、ただ光を眼差し
激痛走る脳髄に、私は耐える
ただ光を眼差し