ハーレスケイドでの戦い(七)
朧月夜

アイソニアの騎士の苛立ちはもっともだった。ヨランですら、いらいらしていた。
だが、オーマル・リケイディアの言葉には、
「強い者は強い、弱い者は弱い」といった、冷めた響きがあった。
彼女は何がしかの確信をもって、ヨランたち一行が危機を脱すると考えていたのである。

(今は、その考えにすがるしかないのか?)と、ヨランは悩む。
アイソニアの騎士は、エビ・グレイムの表皮に剣を突き立てている。
その剣は「ゾフィアスの剣」と呼ばれる、月と風の属性を持った魔剣である。
それは、大半の魔物であれば一刀によって両断してしまう、聖なる剣だった。

無論、そんな魔剣を振るうことができるのは、アイソニアの騎士のような精強な戦士のみである。
盗賊ヨランであれば、魔剣ゾフィアスを持ちあげることすら、覚束ない。
「騎士どの、目を狙ってくださいませ。その怪物は、目から光を発します!」

「そんなことは、分かっている、ヨラン。だが、こいつには百もの目があるのだぞ?」
その通りだった。エビ・グレイムには百、いや百をも超える目があった。
どの目を狙えば良いのか? 百の目をいっせいにか? それは、ヨランでも迷うところだった。


自由詩 ハーレスケイドでの戦い(七) Copyright 朧月夜 2022-09-12 20:08:50
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