音楽の光景
ひだかたけし

複雑な格子模様が錯綜して
意識は奥まり広がり響きの舞台となり
哀しみや歓喜や憤怒や悔悟や驚きや郷愁や絶頂や
あらゆる感情が暴露され晒されていく

  *

遠い村の遠い海で
一日中泳ぎ浜辺で憩った子供たちは
夕に村の石階段を登り
村を横切る川で潮を落とした

海は一日中たゆたい
歓声が空に響き渡り
川は冷たく澄んで
子供たちは皆同じだった
子供たち皆同じ顔をしていた

そして大地のパノラマが広がった
帰り際、ひとりの子供の魂に刻み込まれた光景
遠い海辺の村を呑み込んだ大地が
透明なパノラマとなって高台から広がった
無限の力動を孕んだ大地という実在
驚きと懐かしさの深い感情が
ひとりの子供の魂を打った

  *

今、ひとりの子供は老年を迎え
その魂に複雑な格子模様が錯綜して
意識は奥まり広がり響きの舞台となり
哀しみや歓喜や憤怒や悔悟や驚きや郷愁や絶頂や
あらゆる感情が暴露され晒されていく

魂に意識に鳴り続け木霊する
壮大な音楽の響きに
魂に意識に刻み込まれ木霊する
聴き入るあらゆる音楽の実在に








自由詩 音楽の光景 Copyright ひだかたけし 2022-09-09 19:04:58
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