泥つきのステップ
菊西 夕座
おれの名前は泥つきのスコップ
またの名を墓あらしのスキップ、あだ名は泥まみれのステップ
赤錆の返り血をあびたあばら家に
おれをそっと 逆さに立てかけてはくれないか
おれは自由であることに おぼれていたいと思うのさ
つぶれた顔して錆におぼれるそのように
自由を左右のエラに のせて得意でいたいのさ
まるで青い小鳥をとめているかのような気で
泥つきのおれを 脱走兵にひきずらせていく
魂性なしで宿無しの肉体労働者に。
めあての墓にはヒトリシズカが咲いている
墓石も墓標も 枯草とてもないのに
自由はないと 電動ドリルはいうけれど
その忠告にこそ 穴をあけてみたいのさ
シャッター街の沈黙をぶっかきながら
廃屋の残香を 気楽にあばいていたいのさ
眠るヒトリシズカを根ごと掬い上げてから
おれのひび割れた顎が軽快にステップを刻みだす
泥の拍手喝采がおれの首にすっ飛んでくる
太ミミズどもがからまって お似合いのマフラーに。
どうぞ自由に お堀りになってといわれたならば
だれも掘らない場所をこそ まっさきに狙うたちなのさ
それがどんなに不毛な土地であったとしても
意表をつくためならばさっとほじってみるものさ
藪にうもれた墓場のホールを開場すると
おれの顎先にうつろな響きが呼応する
あの白骨の狂おしい虚無と乾杯!
お役御免の脱走兵が墓穴(ぼけつ)からの逃避行
爆薬がどんなに正しい穴場を薦めていても
そこを意固地に さけていたいと思うのさ
思い通りに掘れない世界と知ればこそ
思い通りにほじくるものかとすねるのさ
おれの取っ手は穴あきの三角形
そのアナルをヒトリシズカで隠したら
日がな一日死神の しゃくれた鎌と底なしに
わけシリ顔でちちくりあって踊りたい