まいるぜ
ホロウ・シカエルボク


古いロッキン・オン、適当に取り出してペラペラめくってみれば
ミック・ジャガ―がヴードゥー・ラウンジツアーをしてたのはいまの俺くらいの歳だった、まいるぜ
もちろん比べる相手も時代も違うってわかっちゃいるけど
俺さまいまでもゴミ漁りみたいな真似して小銭を稼いでる
そう言えばパティ・スミスが
初めて日本でコンサートしたのもそれくらいの歳だった
不思議なことに俺どっちも観てるんだな
あのころは旗振りしてたから、顔は汚かったけど金だけは持ってた
人生で一番羽振りがいい時期と重なってたってわけさ
凄く幸運だったというべきだろうね
あんなタイミングあれっきりだったもの

人生ってなんだろうってのは生きてる限り永遠のテーマだけれど
時々もうどうでもいいかななんて考えるときもある
一時期ほんとにヤバくてさ、数年前の話だけど
死にたい死にたいって我知らず思ってたら本当に死にかけた
食物依存性運動誘発型アナフィラキシーだってさ、まいるぜ
おかげでもうパンもパスタもラーメンもピザも食えない
お好み焼きもうどんだって、カレーだってそうさ
醤油もソースもみりんもケチャップも選ばないと危ない
まあ死ぬかもって思えば食う気にもならないよね
それ以来死にたいって思うことはなくなった
強く念じれば願いは叶うってありゃほんとだね
なのでもっと都合のいい願いを持つことにした
それがなんなのかはここじゃ言わないけど

「人生は自分のしたいことの為にあるんだと思う」って
若くして死んだロックシンガーのセリフだけど
そんな風に思ってたらそりゃ若いうちに死んじまうよな
美しい言葉は力になる気がするけれど
実際そんなものリアルに何かしてくれるようなもんじゃないぜ
そりゃ俺だってセラピーの本なんか読んで楽になったこともあるけれど
正直そんなもんなにも解決しちゃくれない
匙を投げるか立ち向かうか、思うがままに任せるかいろんな場面で決めていかないと
そんで時々は(もうどうでもいいや)だっていいじゃない
負けないこと投げ出さないこと…なんて言ってちゃ頭がおかしくなっちまう
なに?もう俺は手遅れだって?そいつはまいるぜ

停滞の中に居るとつまらない気分の連続で
いつの間にか感覚も麻痺してただただ草臥れちまうよな
世間はどんどん世知辛く、SNSでは言葉狩り
誰かを批判出来るような出来過君はアカウントなんて持っちゃいないでしょ
そういえばあの人どうして俺のツイートなんか読んでたんだろう
有料トークのネタでも探してたんですか?
眠れない夜なんかもうなんか
路地裏に捨てられた数年前のフライヤーみたいな気分になって
まいるぜ、まいるぜって繰り返してたりするけれど
枕の上で遊んでいればそのうち嫌でも睡魔はやって来る
そしてもちろん朝は叩き起こされる結果になるけれど
金が無くたって身体は壊すんだ
そんでバイクでこけたりしてさ
治療費修理費強制的休日
あげく転んだ拍子に壊した歩道のポールを実費で弁償する羽目になる
まいるぜ
そんな時に限って任意保険入ってないんだよな

神様は時々いじわる、なんて、昭和の歌謡曲じゃないけどさ
なんでそんなことするんだよってまあ思うよな
考えたってしょうがないことだってまあわかってるから
別に悶々としたりはしないけどさ

もしも人生にチャプターが付くなら
俺の人生なんてディスクは誰もトレイに入れようとしないだろう
いや俺だってそんなもの観たくない
大好きなホラー映画でもフィルムマラソンするさ

結局俺がなにが言いたいかって言うと
仕事復帰するってなったら台風が直撃する日なんだよ
まったく、本当にまいっちまうよな


自由詩 まいるぜ Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-09-05 21:45:41
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